日本が舞台の法廷ドラマは−周防正行監督の場合
昨日の記事の続きです。
日本の司法の現状では、本格的な法廷ドラマを描くのは難しいと書きましたが、
周防正行監督は2007年公開の映画「それでもボクはやってない」で法廷ドラマに挑戦しました。
この作品は「Shall we ダンス?」以来11年ぶりの監督作品でしたが、
「ファンシイダンス」「シコふんじゃった。」「Shall we ダンス?」と
娯楽的要素が強く、比較的肩の力を抜いて観られる作品群とは違う社会派路線だったので、
あれ、と思ったものです。
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でも、よく考えたら「それでもボクはやってない」も、「ファンシイダンス」以来の
周防監督の世界にマッチしたものでした。
「ファンシイダンス」は現代っ子の大学生が家業を継ぐために禅寺へ、「シコふんじゃった。」は
卒業単位のために大学生が相撲部へ、「Shall we ダンス?」はごくまじめなサラリーマンが
ふと社交ダンスの世界へ迷い込んでしまう、というストーリーです。
いずれも「普通の人が、マイナーな世界に放りこまれて奮闘する」お話なんですね。
禅寺も、大学相撲部も、街中の社交ダンス教室も、存在は知られていても中に入ることは滅多にありません。
周防監督の映画の中では、それらは一般の人からは窺い知れない閉じた世界として、
その特殊性を面白おかしく、時には真摯に描かれています。
「それでもボクはやってない」も、裁判という一般の人が知らない世界に放り込まれて奮闘する話ですから、
実は今までの路線と実は同じだったのです。
ただ、前の三作品はポジティブに奮闘しますが、
「それでもボク〜」は冤罪事件に巻き込まれてネガティブな方向の奮闘になっているはずです。
(すみません、映画は未見です)
冤罪事件を扱ったのもなるほど、とうなずいてしまいます。
昨日書いたように検察と裁判官とのせめぎ合いがないのなら、
弁護側と検察側との息詰まる攻防を描くのも難しいです。
(それを裁く中立の立場が弱いから)
とすると、日本の裁判の特殊性(最良証拠主義、自白偏重…)を強調するには
冤罪事件がぴったりです。
周防監督の企画の選び方は独特かつ論理的で、とても参考になりますね。
しかし、そうやって「閉じた世界」として特殊性を映画の題材にされてしまう日本の裁判って…。