小説の冒頭2 小説の世界観を披露するパターン

(今回も自分用メモとして)


小説の冒頭、前回はアクションから始まる小説について触れましたが、
今回は冒頭で小説の世界観を披露するパターンを取りあげようと思います。


「この小説はこんな世界のお話ですから、覚悟してくださいねー!」と最初から宣言してしまうやり方ですね。
このパターンでの成功例ですぐに思い浮かぶのは夏目漱石草枕」です。


有名な「智に働けば角が立つ。情に竿させば流される…」という出だしが、漱石らしいネガティブな、ダウナーな気分で始まり、
「人でなしの国は人の世よりも、猶住みにくかろう」と皮肉っぽい調子でその気分をもからかいつつ、
「あらゆる芸術の士は人の世を長閑にし、人の心を豊かにする故に尊い」と
両手を挙げた芸術礼賛にたどりつきます。


この芸術礼賛の態度が「草枕」の全編にいきわたり、小説の主要な人物はみんな風雅を求めて仙人のように
浮世離れした世界を歩んでいきます。
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草枕 (岩波文庫)

草枕 (岩波文庫)


次にライトノベルの例を挙げます。
冒頭から「こんな世界が始まるんだーっ!」と宣言しているライトノベルですぐに思い浮かぶのは、
涼宮ハルヒの憂鬱」です。


涼宮ハルヒの憂鬱 (角川スニーカー文庫)

涼宮ハルヒの憂鬱 (角川スニーカー文庫)


本文3ページ目にある、あまりにも有名になった涼宮ハルヒのセリフ。
この小説が涼宮ハルヒの強烈なキャラクター中心にまわっていくことを宣言しています。
実に明快な出だしです。


ライトノベルに限らず、エンターテイメント小説は最初のツカミのインパクトを強くすることに腐心しているのでしょうが、
最近のヒット小説でちょっと趣向が異なるものがありました。



まずプロローグで主人公の欲求について説明していますが、「ハルヒ」みたいな強烈な描写があるわけではなく、
整然と語っていきます。
次に、主人公の属性、というよりは通っている高校の描写を重ねています。


ツカミ重視ではなく、物語の前提となる情報をまず読者に提示しようと努めています。
この小説はビジネス書としての側面も強いので、
ビジネス書に慣れている読者に向けてそういう書き出しにしたのでは、と思います。