絶滅危惧種保護の難しさ−春日山産ルーミスシジミの絶滅−


生物多様性保全の問題では、絶滅危惧種を保護して絶滅から救うことが重要になります。
でも、どうやったら保護をしたらいいのか?
これは意外に難しい問題です。
生息数減少の原因がなかなか特定できないからです。


ここに春日山産のルーミスシジミの絶滅に触れて、
自然動物保護とは何なのか?という問題を訴えた文章を紹介します。


昆虫保護の問題に想う  九州大学名誉教授  白水 隆
http://www.kankyok.co.jp/nue/nue04/nue4_1.html


この文章を書かれた白水隆氏は蝶研究の大御所で、
蝶図鑑の著者として名前をご存じの方も多いんじゃないでしょうか。

 ルーミスシジミは国の天然記念物として奈良市春日山での採取は禁ぜられているが、数十年前からこの産地では絶滅している。現在、千葉県南部の清澄山一帯は本種の豊産地で、例年多数の蝶蒐集家がおしかけて大量の標本が採取されているが、一向に減少の気配はない。こういう状態を見ると首をかしげざるをえない。乱獲に近い採集が行われている房総半島で全く減少の傾向すらみせないルーミスシジミが、手厚く保護されていた筈の奈良市春日山で簡単に絶滅した理由は何であろうか。台風による森の荒廃とか、殺虫剤の散布が原因だと言う人もあるが、蝶の生存力を考えるといずれも説得力に欠ける。幼虫の食草のイチイガシは健在であるし、採集によることも考えられない。絶滅した産地を天然記念物に指定して採集禁止にし、現在の多産地は放置して乱獲にまかせている。いったい天然記念物の保護はどうなっているのであろうか。奈良市春日山で豊産したルーミスシジミが原因不明で絶滅したように、現在の房総半島の多産地でもそういうことが起こっても少しも不思議ではない。問題は絶滅に至るような個体数変動の要因が全く研究されていないことである。


白水氏は安易な天然記念物指定に一石を投じていますね。
蝶の場合、食物連鎖の上にいる種と違って個体数が多く、採取によって減少するよりも、
生息環境の変化、特に食樹の減少が個体数に打撃を与えることが多いようです。
けれども、ルーミスシジミのように食樹が残っていても姿を消してしまう例もあるようですね。


いまCOP10で話し合われる議題のひとつとして、自然保護地区の拡大があります。
保護地区は拡大したのに、あの種もこの種も絶滅してしまった、ということが
起こらなければいいな、と心配しています。