「小説の秘密をめぐる十二章」その1


先日の「書きあぐねている人のための小説入門」につづき、執筆の参考になる本の紹介です。


小説の秘密をめぐる十二章 (文春文庫)

小説の秘密をめぐる十二章 (文春文庫)


現代小説家の第一人者で「蟹」「幼児狩り」「みいら採り猟奇譚」など
怖い作品を世に送っている河野多惠子が教える小説の秘密。
これだけでなんだか恐ろしい響きがあって恐る恐る本を開きました。


小説の本質に鋭く迫りつつも、これから小説を書いていこうという人間には
とても参考になる話がたくさんありました。


この本を読み終えて絶対覚えておこうと思ったのは、これ。


●「書きたいもの」を書くのではなく、「書きたいこと」を書け


筆者は、平林たい子を例に「書きたいもの」と「書きたいこと」の違いを
説明していきます。
平林たい子は1905年生まれの作家で、1923年に経験した関東大震災をモチーフに
三つ小説を書いています。
筆者はその作品を比較して、最初の作品「森の中」では関東大震災という災害を経験した
という経験のみが浮き上がってしまっている
(小説の最後が取ってつけたような結末になっている)のに対し、
後期の作品「砂漠の花」では関東大震災というモチーフを消化して
百年に一度の災害に亢奮した人間の躍動に迫ることができている、と分析しています。


また、筆者は自作の「雪」を採り上げて、
ある人物から取材した実話をもとに小説を書いたが、
その題材がまだ「書きたいこと」になっていなかったので、
芥川賞の選考で厳しい評をもらった、と断じています。


……やっぱり怖い人ですね。
(もちろん、「雪」も面白い小説ですけれど)


この「書きたいもの」と「書きたいこと」の違いは、ライトノベルであっても重要だと思います。
最初に思いついたアイデアだけだと、「書きたいこと」までには行っていないんだと思います。
そのアイデアからうまく自分の世界観やモチーフと合う要素を引き出して、
あるいは自分の世界観に合うように噛み砕いて、初めて「書きたいこと」になるんだろうなあ、と。
……まだそんなに書いた経験がないので、これ以上偉そうなことは言えませんが。


ほかにもライトノベルを書くにあたって参考になることがいっぱい書いてありますので、
順に紹介していこうと思います。