平城宮跡の公園整備問題について

先日、平城宮跡の遺跡で大きな問題が発生していることを知りました。


平城宮・朝堂院跡、市民ら緊急声明 整備の即時中止を 奈良」
http://sankei.jp.msn.com/region/news/121004/nar12100402030001-n1.htm

国土交通省平城宮跡奈良市)の第一次朝堂院跡で始めた広場整備工事について、同市在住の作家、寮美千子さんら9人が3日、中止を求める緊急声明文を国交省平城分室に提出した。

 声明文では、工事で地下水が枯渇し、埋蔵文化財が破壊される可能性があると指摘。市民を含めた議論が十分でなく、自然と歴史が調和した公園を目指すべきだとして、即時中止を求めている。

 寮さんによると、声明文には学識経験者も含む約120人が賛同。今後、中止を求める署名活動なども検討しているという。

 工事では、土とコンクリートを使用して広場を整備する計画。同室はコンクリートの使用量を、重量比で土の4%にすぎないとし、「遺構・遺物の保護を最優先に考えており、影響があるとは考えていない」としている。


問題を整理しますと、平城宮跡は現在「国営平城宮跡歴史公園」として整備されています。その一つとして第一次朝堂院跡の湿原を土を混ぜたコンクリートで舗装するという計画が9/20に発表され、9/25には準備が始まっています。国土交通省近畿地方整備局の資料(http://www.kkr.mlit.go.jp/asuka/heijo/activities/current/pdf/120920release.pdf)では二つの目的を挙げています。

  • 朱雀門から第一次大極殿正殿への往時の広がりを体感しながらアプローチできる
  • 第一次朝堂院内に復元した基壇を間近で体感できる


しかし、この目的のために、奈良時代の遺構・遺物が危険にさらされるかもしれません。その危険を冒すほど大切な目的なのでしょうか。


国土交通省は「遺構・遺物に影響があるとは考えてない」と回答しており、荒井正吾奈良県知事も「文化財の保護という視点は専門家が議論してきており、問題がない」としています。(http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121004-00000199-mailo-l29
しかし、平城宮跡は以前から保存に問題があるとユネスコ世界遺産委員会から指摘を受けています。


平城宮跡の駐車場撤去要請
http://usoemon.cocolog-nifty.com/blog/2011/07/post-0b49.html

 第35回世界遺産委員会の中で、6月29日、日本政府に対して、平城宮跡にある駐車場の撤去を求める決議がなされたようです。
 景観の問題や地下遺構の損壊の危険ということです。駐車場は昨年開かれた平城遷都1300年祭に合わせて作られたものだそうで、今後撤去することになるようです。特に登録削除につながるほど深刻ではありませんが、撤去の決議を受ける事態になってしまったのは残念です。

UNESCO世界遺産委員会の勧告はこちら(p109あたり)
http://whc.unesco.org/archive/2011/whc11-35com-20e.pdf


文化庁世界文化遺産無形文化遺産部会世界文化遺産特別委員会も、ユネスコの勧告について触れ、問題があると認識をしています。駐車場などの仮説施設については来年2月1日までに保存状況や再建の妥当性の根拠を報告するように要求しています。ちなみに、駐車場はまだ撤去されていません。


世界文化遺産特別委員会・議事録 2012年4月23日(p18あたり)
http://www.bunka.go.jp/bunkashingikai/isanbukai/sekaiisanbukai/01/pdf/gijiroku.pdf


こうして見ると、平城宮跡の保存に関してはもともと問題が指摘されていたわけです。それなのに「遺物・遺構の影響はない」とするのは拙速です。奈良県知事は専門家が太鼓判を押したように発言しておりますが、文化庁の資料を読む限りではそのように受け取ることは出来ません。世界文化遺産特別委員会は遺跡の「サステナビリティー」を重視しつつも、「遺跡の経営の観点からするとやむを得ない場合もある」として、収益のために遺跡の保存が損なわれることもあり得るような発言をしています。(p20など)


今回の平城宮跡第一次朝堂院を舗装する事業は、まさに国営公園の経営的観点から出たものでしょうが、経営的観点からしても観光客が望むことなのか疑問ですし、遺跡の保存という観点からするとマイナス以外の何物でもありません。平城宮跡のだだっぴろい平原は、奈良の時代に思いを馳せるにはうってつけの環境です。土色の舗装という草刈りの手間を省くためだけの効率主義は、平城宮跡に全く似合いません。


舗装事業の反対運動をされている作家の寮三千子さんがまとめられているように、平城宮跡は江戸時代末期にその場所が推定され、その後個人の努力で発見や保存活動が行われ、ようやく国が保存に乗り出したという経緯があります。
↓ ↓  ↓


国交省による平城宮跡の「土色舗装工事」はいかに歴史を無視しているか」

http://ryomichico.net/bbs/review0012.html#review20120927141329


平城宮跡が発見されてから約100年後に、国の手によって遺物が損なわれるということがあってはなりません。この問題に関心をお持ちになったら、ぜひこちらのページ「世界遺産 平城宮跡〈埋立て・舗装工事〉の即時中止を! 平城宮跡を守る会」で署名・賛同にご協力ください。